■電磁波の公共性に関する問題。
これは電磁波が一般社会の中で通信・放送・信号として最も早くからその有用性が認識され、科学技術の発達に伴ってその利用が加速度的に増加したために、相互の妨害・ 干渉を防止し、それぞれの利用目的に応じた住み分け・共存を図る事に関する問題です 。
空中を伝播する電磁波について国境など無意味のものであることは当然の事であり、 日本国内など国家単位の問題としてではなく、 国際的な取り決めをベースとして各国がそれぞれの国内事情を考慮し、国内法を整備して運用にあたっています。
具体的には 「CCIR(国際無線通信諮問委員会」、「CISPR(国際無線障害特別委員会)」、 「WARC(世界無線通信主管庁会議)」などの国際的検討および議決、「電波法」、「放送法」 などの国内法規、規則、省令などがこれにあたります。
もちろん我々工業目的の電磁波利用についてもさまざまな制限があり、 日本国内では、使用する周波数・出力電力・漏洩電界強度などが以下のように規定されています。
  1. 10KHz以上の高周波電流を利用し、 50W以上の高周波出力を使用する工業生産のために用いる装置の使用については所轄電気通信監理局長の許可が必要。
        ----電波法第百条、電波法施行規則第四五条
  2. 工業用加熱設備から発射される基本波またはスプリアス発射による電界強度の許容値は100mの距離に於いて100μV/m以下であること。
        ----無線設備規則第六五条
  3. 通信以外の高周波利用設備から発射される基本波またはスプリアス発射による電界強度の許容値の特例。
             ----無線設備規則第六五条,郵政省告示第二五七号

     3-1 最大許容値を定めない周波数帯

13.56 MHz±6.7KHz
27.12 MHz±162.72KHz
40.68 MHz±20.34KHz
2.45 GHz±50MHz
5.8 GHz±75MHz
22.125GHz±125MHz

     3-2 最大許容値の緩和

    450KHz以下           ・・・・・ 100mの距離に於いて 1 mV/m
    40.46MHz ±240KHz ・・・・・ 100mの距離に於いて 2.5mV/m (41.14MHz ±240KHz)

 なお、一般的に電界強度は1μV/mを0dBとする対数で表示し、 以下の例の計算式により算出されます。
例) 2.5mV/mの場合 2.5mV=2500μV であるから
 電界強度(dB)=20Xlog2500=67.96 dB (μV/m)
これにより 100μV/m, 1mV/m はそれぞれ 40dB, 60dB (μV/m) となります。

 特に上記3)は、高度に発達した現代産業の中で工業加熱としての高周波(電磁波)の利用が、 特にプラスチックスや金属加工などの分野で絶対不可欠のものとして市民権を獲得していることを示すもので、 3-1はISM周波数と呼ばれ「通信以外の高周波利用設備」に優先的に割当てられたものとしてご存知の方も多いでしょう。 この「通信以外の高周波利用設備」には工業用のほかに医療用設備、科学用設備があり、 人体の断層写真でおなじみのMRI、ガンの温熱療法、電気メス、サイクロトロンなどの粒子加速器、 プラズマ発生装置など医療・科学の最先端分野で活躍しているものがたくさんあります。

 さて、一般生活に最も身近な電磁波と言えばラジオ・テレビなどの放送電波ですが、 これらの場合当然ながら電磁波を信号の担い手(キャリア)として遠隔地まで到達させることを目的としていて、 50KWとか100KWとかの大電力が放送局の数だけ空中へ放射されているのが現実です。テレビの場合は視覚に訴えるため、 画面にほんのちょっとしたチラツキ(俗にユキが降るという)が現れても気になるほど良質の信号を伝送する必要があり、 受信側での電界強度は最低でも60dB以上必要です。弊社の工場がある東京近郊(埼玉県鶴ケ島市)でも80〜90dB(μV/m)の電界強度がありますし、 東京タワーが視認できる都区内では100dBを超えるところも珍しくありません。 ラジオでは市街地に近い和光市のFEN(米軍極東放送)送信所の近くで120dBをはるかに超えた電界強度が測定されていて 関越道練馬インター附近を自動車で走行中にはどの放送局を受信していてもFENが聞こえてきてしまうほどです。
これに対し、工業用高周波設備では数KWから数100KWの、放送局並みの高周波出力を有してはいますが、 その目的からして被加工物に加熱などのエネルギーとして如何に効率よく供給するかが要求され、 空中へ放射されるエネルギーは全くのロスと考えるべきものとして極力抑止されています。
アプリケーションの要求から3-1の「通信以外の高周波利用設備」向けに割り当てられた周波数帯を使用できない場合には、 電磁波の空中への放射を抑止する完全遮蔽構造を採用し、放送局並みの電力を扱いながらも100mという非常に近い距離で40dBとか60dBとかの低い電界強度を実現しています。 またアプリケーションの中には被加工物の形状・寸法、操作性などの問題から必ずしも完全遮蔽構造がとれない場合も存在し、この場合には上記3)-1の「通信以外の高周波利用設備」 向けに割り当てられた周波数帯を使用しますが、被加工物への効率的エネルギー供給が目的であって、放送局などのように空中への放射を目的にする訳ではありませんから、 おのずと放射するレベルは抑えられていて装置近傍で100〜120dB程度となっています。

 弊社では、お客様の設置場所に於いて法の規定による許容値を余裕を持ってクリア出来るよう、 出荷される全装置について厳しい品質基準にのっとって厳密な測定を実施し、また実際の設置場所に於ける測定、所轄官庁の落成検査などについても迅速に対応して妨害問題に対して万全を期しております。

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